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患者さまとご家族の声
Family’s VOICE

Interview01『先生の声』浅野 一恵 先生(以下 浅野とする)

「食べることは生きること!」

食べるということにとことんこだわって、さまざまな新しい取り組みを展開しているつばさ静岡の、大国柱ともいえる小児科医・浅野一恵先生が語る、味も見た目も、匂いもおいしい、お楽しみの胃ろう食とは?

  • つばさ静岡に入所・通所している経管栄養の人で、胃ろう食が可能な人はどのくらいいますか?

    浅野基本的には胃から栄養が注入できる人であれば、全員胃ろう食の注入は可能です。当施設では3歳から49歳の入所19名、通所9名、合計34名に定期的に胃ろう食を提供しています。提供する際は各人の病状やアレルギーを考慮して、個別に注入する量や内容を設定しています。

  • 胃ろう食は特別な献立ではないのですね。

    浅野そうです。口から食べられる人と同じメニューを加工して提供しています。一品の料理としてしっかりとした味、匂い、形、彩りがあり、かつチューブを通ることができるようなやわらかさに調整しています。

  • 浅野 一恵 先生

    どうやってチューブに入るやわらかさにできるのですか?

    浅野当施設の胃ろう食の特徴は、酵素入りゲル化剤(粘りを軽減する酵素が入ったゼリー化剤)を使用していることです。これには潤滑効果があるので、濾(こ)さなくてもチューブに詰まらず、余分な水分を足さずに注入できます。水で薄めすぎないですむので、食物繊維をはじめとした栄養価を高いまま提供することができます。注入量や主食と副食の比率などは、その人ごとに設定し、体重の変化や血液データを参考にして定期的に見直します。

    浅野 一恵 先生
  • 胃ろう食にして、実際にどんな変化がみられるのですか?

    浅野一番先に顕著な変化が認められるのは、便通の改善です。食事にしかない栄養素が入ることで、腸内細菌が活発に働くのでしょう。さらにご飯やおかずの見た目や匂いが食欲をそそり、消化酵素の分泌が促されて、胃腸蠕動(ぜんどう)が活発になり、吸収も良くなるのだと思います。どの人も、皮膚がツルツルときれいになり、体重が増えた人もいます。低タンパク血症や鉄欠乏症貧血のあった人も胃ろう食をはじめたことで、血液データが正常化しました。注入する食事の内容を個人ごとに変えてあげられるので、その人に足りない栄養成分を補ってあげることができるのです。例えばタンパクが不足しがちな人にはお肉や魚、大豆製品などを多めに注入してあげます。
    そして何よりも顔色や表情が変わりました。食事の時間が待ち遠しくて、胃や腸が「おいしい」「おいしい」と満足感を脳に伝えるのでしょう。気持ちが安定して、夜もよく眠るようになりました。

  • 胃ろう食は在宅でも可能ですか?

    浅野もちろんです。チューブに通るぐらいの粒状になるまでミキサーにかければ、どんな食事でも胃ろうから入れることができます。自宅でも簡単に加工できる酵素入りゲル化剤を使った「簡単胃ろう食」を考案し、料理教室でレシピを教えることもあります。多くのお母さんたちは毎日家庭で作っており、わが子に食べてもらいたいものを料理して胃から食べさせてあげています。家族と同じメニューで一緒に食卓を囲みながら、食事の時間を楽しんでいます。お母さんが作ったものを家族で食べるという当たり前の食事風景が、きょうだいのきずなも生むし、お母さんの気持ちを安定させるということも見逃せないと思っています。

  • 浅野 一恵 先生

    口から食べられないなら、管から栄養を入れれば良いというのが医療の考え方ですね。

    浅野脳性まひでも腸には障がいがないことがほとんどなのですから、食物アレルギーに気をつけさえすれば本来は何を食べさせても問題はないはず。できれば、通常と同じように離乳が始まる時期から、胃からの食事を開始できれば良いのではと思います。しかし残念ながら多くの医療者にはまだそういう発想は少なく、「食事」を軽視してしまっているのが現状なのです。
    命を救うために、赤ちゃんに管から栄養を与える、しかしそこからの挑戦がないまま退院してしまうことがあります。そうすると親は、この子は食事がとれないと思い込んでしまい、ずっと食事との縁が一切ないまま大人になってしまうこともありうるのです。たとえ胃ろうからであったとしても、子どもたちに食事と出合わせてあげたいと思います。食事には毎日の五感を通じた変化があり、その変化がコミュニケーションを生むからです。

  • これから胃ろう食を始めようと思う親御さんに伝えたいことはありますか?

    浅野こうしなくてはならないという決まりはありません。家庭でできる範囲で1日1回、週に1回でも良いので、むりせず料理できる時にまずは始めてみてください。多めに作っておき冷凍保存をしておく方法でも良いのです。栄養学的にいいからと毎食頑張ることは実際大変でしょう。経腸栄養剤などを併用しながらでもいいので、とにかく楽しみながら継続することが大切です。
    すでに胃ろう食を取り入れているお母さんたちに体験談やノウハウを聞いてみるのが、一番ではないでしょうか。離乳食を始めるように、まずはおかゆやスープ、ココア、きな粉等手軽なものを一匙からはじめてみてはどうでしょう。胃ろうから食事を入れることは、少しずつ広まってきています。不安なことは身近な主治医や栄養士さんに相談をしてみると良いでしょう。

※入所:障がい児・者を入所させて保護し、日常生活の指導、独立自活に必要な知識技能の付与および治療を行うことを目的とした施設。

※通所:障がい児・者を保護者のもとから通わせて、基本動作の訓練や治療などのさまざまなサービスを提供する施設。